メンバー

三河内 岳

MIKOUCHI, Takashi

教授
総合研究博物館

居室: 総合研究博物館本館218
電話: 03-5841-2830
ファックス: 03-5841-8451
メールアドレス:
HP: http://www-space.eps.s.u-tokyo.ac.jp/group/mikouchi-lab/

研究分野

惑星物質科学・鉱物学・隕石学

研究内容

現在の主要研究テーマは、電子線・X線分析装置(X線回折計、放射光X線吸収分光、電子マイクロプローブ、走査型・透過型電子顕微鏡)、顕微赤外・ラマン分光などを用いた地球外物質の鉱物学的研究である。太陽系が誕生した初期情報を残す未分化の隕石やNASAの「スターダスト」探査機によって得られたWild 2彗星塵、「はやぶさ」及び「はやぶさ2」小惑星探査機によって得られたイトカワ、リュウグウ小惑星塵から月起源や火星起源の隕石などの高度に分化した惑星物質まで広く扱い、太陽系のさまざまな天体で起こった物質進化、天体進化についての解明を行うことを目的にして研究を行っている。また、南極での隕石探査も、日本南極地域観測隊や韓国隊メンバーとして実施してきた。
これまでの主要な研究成果には下記のものがある(太陽系の天体進化度順)。
1.炭素質コンドライトに注目して、電子顕微鏡に付属した後方散乱電子線回折(EBSD)装置により、これまでに未知であった鉱物を発見してきた。例えば、Kaidun隕石中のFlorenskite(FeTiP)、Andreyivanovite(FeCrP)、NWA 470隕石中のDmitryivanovite(CaAl2O4)、ALH 85085中のKushiroite(CaAl[AlSiO6])である。これらの新鉱物の発見は、各試料の詳細な観察・結果による産物で、それぞれ原始太陽系星雲やダストが集積した母天体における形成環境に重要な制約を与えるものである。
2.NASAのスターダスト探査の初期分析チームとして、探査機が持ち帰って来たWild2彗星の塵を電子顕微鏡、放射光X線回折を用いて分析し、カンラン石や輝石が主要鉱物として含まれることを明らかにした。 また、はやぶさ小惑星探査機がサンプルリターンを行った小惑星イトカワの微粒子を分析し、約800度の熱変成を受けた普通コンドライト(LL5〜6)とよく一致することを示した。最近は、初期分析チームで精力的にリュウグウ試料の鉱物分析を行っている。
3.小惑星として宇宙空間で観測された天体が地球に隕石として落下した初めての例であるAlmahata Sitta隕石の分析を行い、輝石の微細組織の観察より高温から急冷したことを示し、金属鉄の詳細な分析からその後の超急冷過程も存在することを明らかにした。Almahata Sitta隕石をはじめとした様々な角レキ化した隕石の分析により、母天体が破壊され、さらにその破片が再集積するイベントが太陽系での天体進化において普遍的であることを指摘した。
4.約45.6億年前の形成年代を持つ分化隕石(アングライト、ユークライト、ブラチナイト)の形成過程を鉱物分析や酸素雰囲気制御電気炉を用いた結晶化実験による解明を行ってきた。アングライトではカンラン石の外来結晶の微量元素組成や変形組織に注目し、アングライトの親マグマ組成との関連性を指摘した。ユークライトは、シリカ鉱物に注目することで、結晶化・熱変成過程に制約を与えることが可能となった。ブラチナイトは、カンラン石に見られる結晶軸配向性を電子顕微鏡で調べ、母天体内でのダイナミックな活動を浮き彫りにした。
5.月試料中の斜長石に含まれる鉄の価数を放射光X線分光法(XANES)により分析し、月斜長岩が他の月試料に比べて優位に3価の鉄の割合が高いことを明らかにした。このことは、月のマグマオーシャンの固化が酸化的環境で起こったことを示しており、近年注目されている月に存在する水などの揮発性物質の進化過程との関連が示唆された。
6.多くの火星隕石について、詳細な岩石・鉱物分析を行って来ている。結晶化実験も合わせた結果、火星表層近くでのマグマ結晶化過程が明らかになってきたシャーゴッタイトと呼ばれる火星隕石の大部分を占めるグループでは、ほとんどがカンラン石や輝石の集積岩であるが、少数にマグマから直接、過冷却下で結晶化した試料があることを発見した。また、第2のグループであるナクライト火星隕石については、このグループに属する多くの隕石が火星の同じ岩体を起源とし、さらに岩体の中で各試料が表層から深部まで層状に分化していたと言うモデルを提唱した。
7.以上、すべての地球外物質において、衝撃変成は天体進化に付随して最も主要な素過程の一つである。衝撃組織や鉱物の分析だけでなく、衝撃実験を合わせた上で、特に火星隕石に注目して強い衝撃変成で起こるカンラン石の特徴的な変化のメカニズムを検討した。その結果、衝撃変成作用によりカンラン石が黒色化することが普遍的に起こっており、この原因がカンラン石中に析出した鉄のナノ粒子であり、不均化反応により形成されることを示した。

主要論文・著書

1. Deng Z. et al. (2020) Early oxidation of the martian crust triggered by impacts. Sci. Adv., 6, eabc4941, DOI: 10.1126/sciadv.abc4941.
2. Mikouchi T. et al. (2014) Mineralogy and crystallography of some Itokawa particles returned by the Hayabusa asteroidal sample return mission. Earth, Planets and Space, 66, 82, doi.org/10.1186/1880-5981-66-82.
3. Mikouchi T. et al. (2010) Electron microscopy of pyroxenes in the Almahata Sitta ureilite. Meteoritics and Planet. Sci., 45, 1812-1820.
4. 三河内 岳 (2022) 「太陽系での天体進化プロセスの解明を目指して:多様な地球外物質の鉱物学的研究によるアプローチ」岩石鉱物科学, 51, gkk.220214, doi:10.2465/gkk.220214/
5. 三河内 岳 (2014) 「エポックメイキングな隕石たち(その4):Elephant Moraine A79001隕石〜火星起源を証明した隕石」, 遊星人 (日本惑星科学会誌), 23, 278-282.
6. 三河内 岳・紋川 亮・杉山 和正 (2011) 「地球外試料中角閃石の結晶化学と形成過程について」日本結晶学会誌, 53, 64-69.